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Diary #4

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焔の月 5日目
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葉枝の月 30日

わたしがタイルニスの言葉を未だにしゅうとく出来ていないことを
心配して下さったのでしょう、イラムス様が声をかけて下さいました。
言葉が出来ていないがためにイモンを使うことが出来ていないのだろうと、おっしゃいました。
イスミルの方が向いているのでは、とも。
足の動き、手の動き、体の動き、どれをとってもよういではないとのことでしたが

エィス様方のイスミルを見ても、わたしに出来るかどうかは分かりません。
しかし、やらなければ、なりません。

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「このまま路地裏にいても埒明かないな。坊主」

フリードリヒは不安そうに自分を見上げていた少年に声をかけた。
その低い声に少年は一瞬、体を身構える。

「お前も、この街には救援に参加するために来たのか?」

少年は言葉の意味を考える様にフリードリヒの木の幹の様な瞳を見つめ、
やがてゆっくりと一つ頷いた。

「他に同行者がいるんだな?」

フリードリヒは少年の隣にいた女を一瞥してさらに訪ねる。
女は状況を理解できていないのか、疑問に喉を鳴らす。
少年はフリードリヒから一度視線を外し、顔を地面に向けたまま頷く。

「その同行者も、お前を探しているだろう。
 ならば探しやすい場所に移動した方が良い。
 …その場所がどこか、分かるか?」

フリードリヒは最初こそ普段の声音だったが、今度は柔らかい口調で問いかけた。
座っている二人は、ほぼ同時に顔を見合わせた。
再び正面を向くと女は小首を傾げ、少年はそれとは逆の方向に首を傾げる。
問いかけから三拍ほど時間が空く。

「…登録所!」

二人への問いに自分の考えを巡らせていたアンジェリエルが声を発した。
それと同時に少年も答えを見つけたのか、フリードリヒを見上げる。

「そうだ」

フリードリヒは答えに対し、二人の会心を満たす様に満足そうに頷いた。

「坊主、登録所はお前もお前の同行者も知っている共通の場所だろう?
 無闇に探し回るよりは行ったことのある場所へ戻った方が良い。
 あそこは人も多い、何か情報がつかめるかもしれないしな。
 さあ、そろそろ日も暮れる。急ぐぞ」

少年は、そのあどけない瞳に感服の色を滲ませフリードリヒを見上げている。
フリードリヒはややぎこちなく微笑みで返すと、
少年は陽射しを浴びた花の様に笑顔を綻ばせた。

天を覆う陽の光は濃い藍色に染りつつあった。


          *          *          *          


「テテ!」

登録所に着いて早々に、若い男の声がこちら側へ向かって響いた。
息も荒く、その淡い春色の髪を乱れさせ走り込んで来た声の持ち主は
上等で洒落た細身のスーツに身を包んだ男だった。
冷ややかな面立ちとは裏腹に心急いた表情を浮べ、今にも倒れそうだった。
その男の声が聞こえたとたん、黒髪の少年は弾ける様に駆け寄ったのだった。

「君達がテテを、この子を保護してくれたのか?礼を言う」

男はハイアシンス=ヴェルツェルと名乗り、少年をテテと呼んだ。
男は今はすっかり落ち着き払い、本来の冷静さを取り戻しているようだった。
テテも嬉しそうに、ハイアシンスの後ろで彼を見上げている。

「どうだろう。このお礼に夕飯にでも行かないか?」

ハイアシンスはフリードリヒとアンジェリエルにこう提案した。

それは、アンジェリエルにとって少し驚くことだった。
ハイアシンスとテテは、テテの方はハイアシンスに対して信頼を抱いているようだが
ハイアシンスはテテに対して一定の距離を置いている様に見えたからだった。
そう見えたが、成り行きとは言え連れである少年を助けたお礼がしたい、と言っている。
アンジェリエルはハイアシンスを見つめるテテの瞳の意味が分かった気がした。
そしてそれは、自分とフリードリヒとの関係に似ていると思えた。

アンジェリエルは特に断ることも無いと考え、フリードリヒを見上げた。
フリードリヒも怪訝そうにしてはいなかったが、一つ気がかりな点があっただろう。
ハイアシンスから視線を別の方へ向けて問いかけた。

「あの女も、連れなのか?」

その先には自らを「なーな」と呼ぶ白磁の髪の女がいた。
男二人に注目されたなーなであったが、
気にする風でもなく今にも眠りに落ちそうな顔をしていた。

「いや…違う。違うのだが、テテがどうも懐いているようだ。
 彼女もテテを助けてくれた訳だ、一緒でも差し支えはないかな」
「ああ…」

ハイアシンスはフリードリヒの返事を聞くと、
テテに呼んでおいでと伝えた。
テテは夜の帳が折り始めた中でも分かる程に顔色を明るくして、
なーなの方へ小走りで向かった。

その時だった。
賑やかな一団が駆け出したテテとすれ違う。
妙な脚をした女と、目の覚める陽気な柄の服を着た老齢の男、
髪の長いスカートを履いた、恐らくは少年。
そして何より異質だったのは彼らの傍らにいた紅く輝く巨大な物体と、大きな丸い物体。
テテはそちらに気を取られたのか、脚を止める。
アンジェリエルはその二つの存在に目を見張り、思わず息を止めた。

「めか めか!」

突然、それまで全く動かなかったなーなが叫びだし、一団の方へ駆けて行った。


          *          *          *          


アンジェリエルは唄を歌っていた。
それは遠い記憶の中で母がいつも寝る時に歌ってくれていた子守唄。
旋律は所々、朧気だがアンジェリエルは昔は年少の者がぐずる時によく歌っていた。
今はベッドの上のテテとなーなに聞いてもらっている。
昼過ぎから今まで、二人にとっても目まぐるしい時間が過ぎたのだろう、
もうすっかり眠りの中にいるようだった。

「Wonderful!決まりデース!」

かきいれ時の酒場の一角で明るい金の髪を踊らせ、女は声を弾ませた。
なーなが導かれる様に出会ったこの女はレミィ・K・イレブンと名乗り、
アンテセラという世界からセルフォリーフの救援に来たという。
同行していたのは彼女の祖父、スミス・ゴロウ・カネミツと、鐘辻青と名乗る少年。
三人は一目見て別世界からの来訪者と分かった。

なーなが離れようとしなかったためか、または何か考えがあったのか、
フリードリヒはその三人も食事に誘ったのだった。
本来の提案者であったハイアシンスも、興味が湧いたのか二つ返事で快諾した。

そして。
互いが救援のためにセルフォリーフへ来たことを確認すると
フリードリヒは協力体制を申し出たのだった。
それにレミィはいの一番に明朗な声で賛同した。
兼光も静かに頷き賛意を示している。
ハイアシンスも眼鏡を光らせ、同意した。
青は何も言わず、ずっと下を向いていたままだった。
誰も異を唱えず、話は直ぐに纏まってしまった。

流れるような話し合いに、アンジェリエルはミルクを飲みながら付いていくのがやっとだった。
テテとなーなは恐らく興味が無いのだろう、
デザートに出てきた林檎を美味しそうに頬張っている。
互いの素性も知らぬままに、こうも上手く行くものなのだろうか?
大人のやりとりは、いつも窓にかけられた布のようだとアンジェリエルは思った。
ただ、フリードリヒがレミィの持つ紅い兵器を見た時に表情が変ったことから、
それを何かしら評価していることは分かった。

「あれは魔道兵器とはまた別の物なのかな」

アンジェリエルはそういった類があることは知っていたが見たことはなかった。
また、知っている範囲のどれ一つとして同じものはなかった。
それは自分たちのいた世界とはかけ離れているということに繋がる。
フリードリヒの考えはそこで決まったのだろうか。

部屋の戸が静かに開く。
戸口に立つフリードリヒを見ると、アンジェリエルは微笑んだ。

「何だ、まだ寝ていなかったのか」
「はい、フリードリヒさんがまだ戻られていなかったので…。ハイアシンスさんは?」
「下でまだレミィと兼光と話をしている。どうやらあいつは学者肌のようだ」

フリードリヒは着ていたコートを壁にかけ、
空いているベッドに腰を掛けると首を左右にゆっくりと動かし肩を解した。
その表情には疲れが浮かんでいたが、どこか安堵した雰囲気を漂わせていた。

「アンジェリエル、お前も疲れただろう。明日からさっそく出ることになる。
 子守は…もう必要ないな、もう休め」
「はい…」

アンジェリエルは久しぶりに時間が緩やかに流れるのを感じていた。
フリードリヒと行動を共にしてから夜にこうして過ごすのは初めてのことだった。
テテとなーなの規則正しい寝息が耳に心地良く響く。

「どうした?」

フリードリヒは上の空で答えたまま動かないアンジェリエルを妙に思い問いかけた。
アンジェリエルは、弾かれる様にフリードリヒを見るとゆっくりと笑みを零した。
陽が再び昇った後に巡りあうであろう期待に胸を躍らせながら。

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Special Thanks.
ENo.1894 フリードリヒ=フォーゲルベーレ
ENo.39 Hyacinth=Welzel/Tete=Cucurell
ENo.3244 NA.NA
ENo.613 レミィ・K・イレヴン
ENo.81 鐘辻青
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