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Diary #1

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焔の月 2日目
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紅枝の月 28日

きのうのあらしはうそのように、今日ははよくはれています。
ライキャパクにえらばれたエィスさまから、このノートをいただきました。
おかあさまがもたせてくれたのだと、おっしゃっていました。
うけとれないと、そういいましたら、わたしにつかってほしいと、
いってくださったので、にっきをかこうとかんがえました。

エィスさまは今はヨースにおられるのでしょうか。
どうか、ごぶじでありますように。

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北の果てにある、根の城と呼ばれるその場所は、
霧に覆われた深い渓谷のさらに先に存在するという。

お伽噺の様なそこは、しかし確かにあって、私の父は生前、
根の城へ行商に行くことを夢見ていた。

「北の果てには、アレーナ程の広さの幹を持つ木に抱かれた集落があると言うんだ。
不思議だろう?
そんなに大きな木がこの世にあるのか、そこで暮らしているのはどんな民なのか。
私はこの目で見てみたいんだよ」

父はいつも言っていた。
根の城への行商は国の許可を得なければならず、
それは毎年変り、ごく限られた者にしか与えられなかった。
多くの行商にとって憧れであったその権利は、
父の様に細々と村から村へと商う様では、到底難しいことであった。

私は父の跡を継ぐと、村から村への商いを町から町へと広げていき、
豪商と呼ばれた同業者へも弟子入りの様な形で雇われ、
独り立ちした時には国内外で、そこそこ名を知られるようになった。
その間には、苦労もあったが概ね順調な年月だったと、今になって振り返るとそう思う。
そして父の後を継いで20年近く経った頃、
念願だった根の城への行商の許可を国から取り付けることができた。

父の夢を果たせる。
私の心は否応無しに高ぶった。

私の国から根の城への旅は、大陸を横断し、海を渡り、
さらに半島を北へ北へと進む、とても長いものとなった。
そのため売りに持って行ける物は限られていた。
それどころか、南の地でばかり行商をしていた私には、恥かしいことだが、
極寒と言われる北の地で何が必要とされるのか正直分からなかった。
体を温めるために必要だろうと、安直に唐辛子を持っていったことは、
戒めとして今でも忘れていない。

春に国を出て、夏には根の城の、渓谷の手前にある村へと着いた。
行商たちで賑っていると思っていたそこは、驚くほどに閑散とした辺境の、
貧しいと言っても過言ではないただの、村であった。

驚く私を歓迎する空気などは全くなく村人は皆、余所余所しく
新参者の私が根の城への唯一の脚である船を確保するのも、容易ではなかった。
船着場に船はあれど、船頭がいなかったのだ。

2日間、船着場へ何度も足を運び、宿の主人にも確認を取ったが
「さぁ」という連れない言葉を返されただけで、後は梨の礫であった。
村に着いてから3日目の朝、さすがに今日も船を見つけられなかったら…
と不安を胸に船着場へ行くと、同業者と思わしき男が、
そう多くは無い荷物を降ろし、手ごろな切り株に腰を下ろしていた。
同業者がいる、ということは恐らく今日は船が出る日なのだろう。
私よりも年長の男を見て、私よりも根の城の経験が豊かなのだろうと
勝手に推測し安心した私は思わずため息をついた。
その音に彼は振り向き、私を一瞥すると、不思議な表情を浮べた。
その意味が何であったのか、愚かな私はその時には分からなかった。
しかしそれは直ぐに分かることとなった。

その数時間後に、私はようやく船の上にいた。
人を遠ざけるように切り立った渓谷は先に進むにつれ狭くなり
朝は過ぎたにも関わらず立ち込める霧が視界をより一層奪っていた。
先の見えない船旅に、目的の地が随分と、
海の向こう側の異国の様に遠いものに感じられた。

「船頭さん、あの場所は一体どんな所なんですか?」

僅かに見える水面が揺れるのをただ眺めることに飽き、
またもや不安に襲われていた私は、船頭に尋ねた。
船頭はふいに話しかけられたことに驚いたのか、少し睨む様に私を見つめた。

「あんた…あそこに行くのは初めてかい?」
「ええ、そうなんですよ。ようやくお上からのお許しが出て」
「そうかい…」

船頭はそう私に返したきり、口を固く閉ざし自分の仕事へと戻っていってしまった。

何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか?
しばらく様子を伺っていたが、船頭が再び私の方を向くことはなく、
再び規則正しく鳴る櫓の音と、水を切る音だけが私の耳を覆った。

「兄さん、初めてなんだろう?」

船着場に一番にいた同業者の男が話しかけてきた。

「ええ、はい。分かりますか?」
「そりゃな。兄さん、さては随分とまちぼうけを食らってたろ?」
「はは、お恥かしいですがその通りです。…あなたは何度か?」
「ああ、まぁな」
「あの…良ければ今日はどういった物をお持ちになったのか…」

私はようやく自分と会話をしてくれる人物を見つけて
それまでどんなに心細かったのかを思い知った。
そして彼の言葉に安心してしまったのか、ついついこう聞いてしまったのだった。

「ああ」
男は短く応えると、意外なことに自分の荷物から何点か商品を私に見せてくれた。

「売れる物といえば、食べ物とか…あー、肉はあまり売れないな。
売るなら穀物や野菜、果物に魚といったのが良い。
日持ちする物でなけりゃならないが。
香辛料は他じゃ重宝されるが、あそこじゃ売れない。勿体無くなるだけだ。
他には綿や麻、寒いと言っても革や毛皮はいらないな。
後は…そうだなぁ…
豪奢な反物や装飾品は持っていくだけ荷物になるだけだから、止めときな」
「あの…」
「ん?」

男が何の衒いも無く私に次々と話をすることに、
何か裏があるのかと思ってしまった私は、思わず待ったをかけてしまった。
「教えていただけるのは嬉しいのですが、そこまで…良いんですか?同業者とはいえ…」
「はは、聞いてきたのは兄さんの方だろう。
まぁ、良いってことよ。それよりもあの場所じゃ自分の味方は同業者だけだからな!
むしろ、初めてのおのぼりさんが何か仕出かした方が大変さ」
「え?」
「まぁ、兄さんならそんな気も起こさないだろうけどな。
悪いことは言わない、初めてなら俺の言うとおりにした方が良い」
「は、はぁ…」

陽気な表情を浮べていたはずの男は、もうそこにはいなかった。
その代わりに真剣に私の両の目を見つめ、顔の距離を狭めてこう話した。

「兄さんの国でもそうだろう?毎年あそこへ出入りする奴が変ってるんじゃないか?
なぁに…着けば俺の言っている意味が分かるさ」

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